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第1話:始まりと出会い

☆桜本 美咲

 私が学校から帰宅して部屋着に着替えていた時、スマートフォンからメールの着信音が聴こえた。
 少し急いで着替えを済ませてからスマートフォンの画面に指を滑らせる。

 メールの件名は「今週の日曜日は空いてますか?」だった。
 差出人のアドレスには覚えがないが私は躊躇せずにメールを開き本文を読み始める。

「咲子ちゃん」という言葉が目に入った時、メールの送り主が《お客さん》であると確信した。
 私が「咲子」と名乗っているのは《ビジネス》の時だけだからだ。

 《お客さん》へのメールの返信を終えた私は手帳とペンを取り出した。
 手帳にメールに書かれていた日時と場所をメモする。お金をもらう立場なのだから遅刻する訳にはいかない。

 

 日曜日の朝、私は朝食を終えると今日のスケジュールを確認する。
 今日は昼過ぎから《お客さん》との待ち合わせ場所に向かう予定がある。

 特に予定のない午前中は今週受けた授業の復習や家の掃除に使う。

 早めの昼食を済ませた後は紅茶を飲んで寛ぐ。
 昼過ぎからは《ビジネス》があるので今のうちにリラックスしておく。

 今や家事も当然のように出来ている。
 そして殆ど毎週やっている《ビジネス》も当然のようにこなしてきた。

 こんな生活にすっかり慣れてしまった。

 3年前の私が今の私を見たらどう思うだろう?
 ふと、そんな事が頭に浮かんだ。

 

 

――3年前、私の両親が死亡した。
 交通事故の当事者として。

 3年前に両親の乗った車と女性4名の乗った車が衝突する事故があった。
 両親や女性達の実名こそ伏せられていたが、当時はテレビでも話題になった交通事故だ。

 当事者の全員が死亡した事で世間の注目を集めたのだろうか。

 当事者達の話を聞けない状況ながら目撃者が何人かいた事で事故の調査はスムーズに進んだ。
 そして「両親に過失有り」という結論が下された。

 中学生になったばかりの私には詳しい事は分からなかったが、親戚の伯母さんの話では両親の遺産や生命保険は相手方の慰謝料に消えてしまう、と言う事だった。

 私立中高一貫校のH校に無事合格し、大変だった中学受験が終わったと思えば更に大変な事態が起こったのである。
 少し前までランドセルを背負っていた当時の私にとってショックは大きかった。
 それでも、伯母さんが親身に説明してくれた事もあり現実を受け止める事が出来た。

 両親が死亡してからは伯母さんに助けてもらいながら、なんとか1人暮らしを始めた。
 両親と共に暮らしていた頃にも家事を手伝う事はあったが、1人で全ての家事をするとなれば大変だった。

 伯母さんから私を家に引き取ってもいい、という申し出があったのだが丁重に断っていた。
 両親の実名は報道されなかったにも関わらず、事故の翌日から私を付き纏い、しつこく両親の事を聞いてきたジャーナリストや記者と名乗る迷惑な人達が伯母さんの家にまで押しかけるかも知れなかったのも理由の1つではある。

 何より私にとって家族は父と母だけだと思いたかった。だから、伯母さんと家族になるのは抵抗があったのだ。

 それからはずっと伯母さんに生活費を出してもらっている。
 学業と家事の両立は慣れればなんとかなっていた。

 人の口に戸は立てられないもので、1学期も終わらないうちに私の両親が事故で死んだ事はクラス中の知るところとなっていた。

 幸いにもクラスメイトに私の両親の事をからかうような輩はいなかったが、クラスメイト達の私を見る目が変わってしまったのに気付いてから、数少ない友達に対しても心を開く事は出来なくなっていた。

 

 そして中学1年の2学期の終わり頃、私はH校の教室で進路についての授業を受けていた。
 生徒には早い時期から進路について考えさせるという我が校の方針によるものである。

 教師の話では「大学まで進学した方が高校までしか進学していない人より圧倒的に有利」との事らしい。
 そして「大学の学費は結構な金額になるので早いうちから親御さんにお願いしておこう」という実に建設的な結論で締め括る。

 親御さんがいなくなってしまった私はどうすればいいのだろう?
 冬休みに入ってすぐに私は自分の進路について考え始めていた。

 高校卒業と同時に就職するのも手だが、結婚願望もなく自分の力で生活出来るようになりたいと思っていた私は大学進学が必要だと判断した。

 その為には志望する大学に入学出来るだけの学力が必要だ。そして学費を払うだけのお金も。

 その時点では志望する大学など決まっていなかったが、スマートフォンを使って大学の学費について調べてみると今まで貰ったお年玉で大半が構成される私の貯金では国立大学の学費でさえ払えない事が分かった。

 しかし、伯母さんに大学の学費まで出してもらおうとは思わなかった。
 伯母さんは頼めば大学の学費まで用意してくれるかも知れないが、大学の学費ぐらいは自分でなんとかしたいという私の意地のようなものである。

 大学の学費について調べていくうちに奨学金という制度を知ったが、借金は恐ろしいものというイメージを持っていた私にとって奨学金を借りるという選択肢も抵抗があった。

 そして私が出した結論は「高校卒業までにお金を稼いで大学の学費を貯める」事だった。

 大学の学費というのは高いが、中学生1年生の時から6年かけて働けばなんとかなると思った。

 私はスマートフォンからサーチエンジンにアクセスし「中学生でも出来るお金の稼げる仕事」を探し始めた。

 しばらくすると「お金を稼ぎたい女の子に効率のいい方法を教えます!」と謳うホームページを見つけた。

 そのホームページによれば若い女性と遊びたい男性と一緒に遊ぶだけでお金が貰える「援交」という仕事があるのだと言う。
 出会い系サイトというものを利用して同じ地域に住む《お客さん》を探すのが一般的らしい。
 出会い系サイトでは住所を明かす必要はあるが市区町村まで書けば十分である事、更に学生の場合は偽名を使った方がいいという注意書きもあった。

 なんだか怪しい感じはしたが、1回あたりの相場として書かれていた金額の高さを見て自分でも初めてみようと思った。

 まずはホームページで紹介されていた《お客さん》を探しやすい出会い系サイトに登録した。
 登録する際、名前の欄に本名を入力すべきかどうか迷ったが、先のホームページの注意書きに従い偽名を入力しておいた。

 そして出会い系サイトの掲示板に「中学生でも男性と遊ぶだけでお金が貰える仕事があると聞きました。お金を貯めたいのでお客さんになってくれる方がいたらメールして下さい」と書き込んだ。

 書き込んでから30分もしないうちにスマートフォンからメールの着信音が鳴った。
 文面から察するに出会い系サイトの書き込みを見てメールを送ってくれた《お客さん》らしい。私の最寄り駅まで迎えに来てくれて2時間遊ぶだけで1万円もくれるという。

 私はすぐに最寄り駅と空いている日時を伝える為に返信のメールを送った。 その日のうちに《お客さん》との話はまとまり、翌日の昼に最寄り駅で会う事になった。

 次の日、私は《お客さん》に伝えた服装で約束の時刻の50分前に最寄り駅にいた。 初めての《仕事》だった事もあり、遅刻しないように気を使っていた。

 約束の時刻の20分ほど前になった時、私の前に黒いコートを着た40代ぐらいの男性が歩いてきた。
 男性は私の姿を見ると
「咲子ちゃん?」
 と問いかける。

「ええ、そうです」
 私はすぐに答えた。

 「咲子」とは出会い系サイトに登録した偽名である。
 更に男性の服装は事前に伝えてもらった《お客さん》の服装とも合致する。だからすぐに男性が《お客さん》であると分かった。

 男性は「タナカ コウヘイ」と名乗った。どういう字なのかは説明されなかったが、訊いてみようとも思わなかった。

 それからはタナカさんに付き添って近くのレストランで食事をした。
 それほど高級感のある店ではなかったが、1人暮らしを始めてからは外食を控えていた私にとっては贅沢に感じた。

 食事を終えるとタナカさんが手早く会計を済ませていた。《仕事》の間の食事代やテーマパークの入場料金等は仕事の報酬とは別に《お客さん》が支払うのが普通らしい。

 レストランを出た後はタナカさんに促されて殆ど客のいない喫茶店に入る。どうやらゆっくりと話がしたいらしい。

 タナカさんは喫茶店でホットコーヒーを2つ注文すると隅の方のテーブル席につき、私にも座るように促した。

 私が席がつくとタナカさんは
「咲子ちゃんは援交初めてだよね?」
 と確認するように尋ねてきた。

 私は何か失礼な事でもしてしまったのかと不安を覚えつつ
「はい、そうです」
 と答える。

 それを聞いたタナカさんから
「援交ってどういう事かは知ってるの?」
 と更に質問される。

「中学生でも出来て男性の方と一緒に遊ぶだけでお金を貰える仕事だと聞きました」
 と私は返答する。

 タナカさんはやっぱり、とでも言いたげな表情をしながらしばし考え込む。
 そして
「僕の勘違いならいいけど、多分咲子ちゃんは援交について少し誤解しているところがある」
 と言った。

 それからはタナカさんによる援交講座が開催された。受講生は私1人である。
 つまるところタナカさんは援交について無知な私に正しい認識を与えようとしてくれたのだ。

 タナカさんの援交講座によって私は以下の事を知ることが出来た。

 援交とは世間的にはまともな仕事とは扱われず、特に未成年がやる場合は警察にバレると《お客さん》は捕まってしまい、女の子も補導されること、
 若い女の子と遊ぶだけで満足する男性もいるが、性行為を期待する男性が多いので性行為をしたくないなら予め「エッチNG」等と書いた方が良いこと、
 私立学校に通っている場合、援交が学校にバレると退学の可能性もあること、
 悪い人もいるので危険な目に遭いそうなら迷わず悲鳴を上げた方が良いこと、
 まともそうな人でも後でトラブルになるかも知れないから自宅の住所や通っている学校は教えない方がいいこと。

 1つ1つ丁寧に教えてくれたタナカさんのおかげで自分がどれだけ援交について知らなかったか自覚出来た。
 中学生でも簡単にお金を稼げる仕事だが、リスクも高いのだと分かった。

 最後にタナカさんは
「君が援交のリスクや危険も理解した上でこれからも援交を続けるかどうか考えたらいい。続けるなら歓迎するよ」
 と言って私に一万円紙幣を握らせ、コーヒー2つ分の代金をテーブルの上に置くと喫茶店を去っていった。

 時計を見るとタナカさんと会ってから2時間近くが経過していた。どうやら初めての援交はこれで終わりらしい。

 ただ食事を奢ってもらって色々教えてもらっただけなのにお金を貰ってしまってなんだか悪い気もするが、一万円紙幣をバッグにしまった。

 残された私もタナカさんがテーブルに置いてくれたお金で喫茶店の支払いを終えると帰路についた。

 家に帰ってからもタナカさんから教えられた事を反芻し、援交について考え始める。
 危険な目に遭うのは怖いし、学校にバレて退学になってしまっては大学への進学どころではないだろう。
 伯母さんに知られてしまっても心配されそうだ。
 クラスメイトに知られてしまえばただでさえ孤立気味な私は学校での居場所が完全になくなるだろう。

 援交にはリスクが付き物なのだと理解出来た。

 しかし中学生の身でお金を稼ぐのであれば援交は効率がいい事も知った。タナカさんによれば私ならば身体の関係無しでも1時間で1万円を稼ぐ事も可能だという。
 暗い性格と地味な外見で男子から言い寄られた事のない私でもそんなに稼げるとは驚きだ。それなら大学の学費も積み立てられそうだ。

 少し怖い気持ちもあるけど、やはり援交でお金を貯めよう。
 そう結論付けた私はスマートフォンから出会い系サイトを開いた。

 

 それからは学業と家事に加えて援交という《ビジネス》まで両立させる生活が始まった。

 援交では思った以上にお金を得られた。しかし代わりに失ってしまったものもあった……

 

 

――そこまで回想した時、スマートフォンから突如アラーム音が鳴り、私は一瞬驚く。
 が、それが約束の時刻まで40分しかない事を知らせるものだとすぐに気付いた。

 過去を振り返って、思いを巡らせている間に結構な時間が経っていたらしい。

 私は急いでシャワーを浴びて、予め《お客さん》に伝えていた服装に着替える。

 着替えが終わった私は真っ赤なレザーバッグを持つ。今や《ビジネス》の時にはトレードマークとして機能してくれるようになったバッグだ。

私は元が地味な見た目なので待ち合わせ場所に人が多いと《お客さん》に見つけてもらえるか不安だったが、目立つバッグがあれば《お客さん》から見つけてもらいやすくなる。

 急いで支度して家を出る。待ち合わせ場所は最寄り駅のS駅だ。歩いていっても約束の時刻の数分前にはつくだろう。

《お客さん》が先に来ていて待たせるのも悪いので少し早足で歩く。

 しかし、いくらか歩いたところでスマートフォンを家に置いたまま出てきてしまった事に気付いた。
 スマートフォンがなければ《お客さん》からの連絡を受け取れないので先方に予定の変更等があった場合に困る。

 今からスマートフォンを取りに戻っても走ればギリギリ遅刻はしないはず。私は駆け足で自宅まで戻った。

 全力疾走したにも関わらず10分ほど遅刻して待ち合わせ場所がある公園に到着した。
 私の足は思ったより遅かった上に走り慣れていない私はすぐにバテて最後の方は歩いているのと変わらない速度だったのが原因だろう。

 仕事とは呼べないような《ビジネス》であってもお金をもらう立場なのに遅刻するなんて失礼極まりない。
 相手が短気な人だったらどうしようと不安になりながら待ち合わせ場所まで走り、周囲を観察して《お客さん》を探す。

 待ち合わせ場所の近くにいるのはお爺さんと女性だけだ。
《お客さん》はスーツ姿で来るとメールで伝えられたのでスウェットらしき服を着たお爺さんは違うだろう。

 良かった、まだ《お客さん》は来ていない。
《お客さん》に遅刻された事は何度かあるが、遅刻されて良かったと思ったのは今日が初めてだ。

 安堵すると私はフェイスタオルをバッグから取り出して顔の汗を丁寧に拭う。その後は水筒を取り出して汗によって失われた水分を補給した。

 全力疾走したせいで渇いていた喉が潤ったところで改めて時計を確認する。待ち合わせの時刻から15分が過ぎていた。

 きょろきょろと周囲を見渡してみるが、先程と同様にお爺さんと女性しか見当たらない。

「ねえ、君が咲子ちゃんなの?」
《お客さん》に確認のメールを送信するべきか躊躇してスマートフォンの画面を見つめていると、清らかで美しい声が聞こえた。

「は、はい!」
 突然声をかけられた事に驚き、私はやや吃って答えつつ顔をあげる。

 目の前にはキャリアウーマンといった出で立ちのお姉さんがいた。先程周囲を見渡した時に目に入った女性のようだが近くで見るとモデルのようにスタイルの良い美人だ。

 それだけで地味な外見の私は引け目を感じてしまう。長身でツリ目なのも相まって苦手意識すら芽生えてきた。

「そっかー! 来てくれて良かったよ! お腹減ってる? まずはご飯食べる?」

 このお姉さんは何を言っているのだろう?
 私には彼女との面識はない。こんな美人の知り合いがいたのに忘れてしまったとは考えにくい。

 しばし混乱した私の頭は1つの結論を導き出す。

 まさか、この人が今日待ち合わせしていた《お客さん》なのか……
 確かにスーツ姿ではある……

 もう何度も援交してきた私でも女性の《お客さん》は初めてだ。

「お昼は食べてきたので……」
 戸惑ってしまった私はしばらく口を開けなかったが、お姉さんがずっと私を見つめているのに気付いて慌てて返答した。
 長身でツリ目の美人に見つめられていると威圧されているような気持ちになり居た堪れなかったのだ。

「そうなんだ。じゃあお昼はいいかー。私もお腹すいてないし」
 と言ったお姉さんは思い出したように手を叩く。

「そうそう、苗字だけはメールでも伝えたけどちゃんと名乗っておくね」
 と言って名刺を渡してきた。

「八木山 緑子と言います。緑子って呼んでね!」
 というハキハキした声を聞いて名刺を見るとお姉さんの名乗った氏名の他に「A社」という聞いた事のある会社名が見える。

 その下には「エレクトロニクス事業部 企画部長」という肩書きが見えた。社会人経験のない私には分からないけど凄い人なのかも知れない。

 思い返してみれば「八木山」という苗字は確かにメールでも伝えてもらっていた。適当に偽名を使ったのだと思っていたが本名だったようだ。

「八木山さんですか。名刺まで貰っちゃっていいんですか? 私と八木山さんはまだ会ったばかりですよ」
 私は思った事を口にする。個人情報にはうるさい時代なのに八木山さんは警戒心がなさすぎると思った。

「えー、名前で呼んでくれないの?」
 八木山さんは私の質問には答えず、残念そうに不平をこぼす。

 名前で呼んでほしいとは言われたが、初対面の年上を名前で呼ぶのは気後れする。それに八木山さんの事をどこか苦手に感じる自分がいるのだ。

 八木山さんは悪い人ではなさそうだが《ビジネス》以外で仲良くなりたいとは思えない。八木山さんとは距離を置きたいという気持ちが強かった。
――そうしないと自分が惨めになってしまうから。

 こんな魅力的な同性と並べば私なんて空気以下の存在になる。親しくなってしまえば私は事ある毎に八木山さんと自分を比較しては落ち込む事になるだろう。

 醜い感情が私を覆いそうになった時、私は唐突に自分が遅刻してきた事を思い出した。
 八木山さんは私が待ち合わせ場所についた時には居たのだから私が遅刻したせいで待たせてしまった事になる……

「遅刻してすみません! 結構遅れてしまいました。忘れ物しちゃって、急いだけど間に合わなかったんです!」
 私は八木山さんに向かって深く頭を下げる。

 本来なら八木山さんが今日の《お客さん》だと分かった時点で真っ先にそうするべきだったのだ。混乱のあまり自分が遅刻してきた事を忘れていた。

 援交は真っ当な仕事ではないが、お金を貰う立場には変わりないのだから待ち合わせに遅れて《お客さん》を待たせるのは失礼だ。
 遅れてしまったからには謝るしかない。

「遅刻しないようにアラームをセットしておいたのに、スマホを忘れて取りに戻ったら間に合わなくなってしまって……本当にごめんなさい!」
 私は頭を下げたまま更なる謝罪と言い訳をする。

「そんなに気にしなくていいから、顔をあげてよ」
 八木山さんは人懐っこい感じで言った。

 良かった、遅刻の事は許してもらえそう。言われた通り顔をあげた私は胸を撫で下ろした。

「でも意外だなあ」
 八木山さんがつぶやくように言う。

「意外と言うのは?」
 私は気になった事を聞いてみる。何か変なところがあったのか心配になった。

「咲子ちゃんみたいに真面目そうな人が援助交際してるとは思わなかったから」
 という八木山さんの答えは腑に落ちなかった。

 私は今までも援交での《お客さん》から「真面目そう」と言われた事は多いが、待ち合わせに遅刻した今回に限っては真面目と評されるべきではないだろう。

 言葉だけを聞けば褒められているとも取れるのに、八木山さんと私の感覚の隔たりを感じてしまい、ますます苦手意識が芽生える。

 意外と言うなら八木山さんこそ意外である。事前に《お客さん》がスーツ姿で来るとは聞いていたが、女性だと言う事は知らされていなかった。

 

「私も女性に買われるなんて思わなかったです」という率直な気持ちは口には出さないでおいた。


 

 

 

 

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